耳下腺アミラーゼ分泌を基とした腺房細胞の開口放出機構
開口放出は特定の細胞が有する分泌機構の一つです。小胞膜と細胞膜が膜融合し、融合した箇所が孔となります。これにより小胞内と細胞外液が交通し、その結果、小胞の内容物のみが細胞外へ放出されます(図1)。開口放出のみられる細胞応答は、神経細胞における神経伝達物質分泌、内分泌腺細胞におけるホルモン分泌、外分泌腺細胞におけるタンパク分泌、リンパ球における抗体分泌など、多岐にわたります。現在、様々な手法により開口放出の分子機構の解明が進められています。
近年、神経細胞や内分泌腺細胞では、開口放出機能を保った初代培養細胞や株化細胞(併せて培養細胞とします)が開発されました。この細胞を用いることにより幅広い分子生物学的なアプローチが可能となり、多くの成果が挙げられています。一方、外分泌腺細胞では、開口放出機能を保った培養細胞の開発が十分ではありません。そのため、分子生物学的なアピローチに制限がある現状です。
耳下腺をはじめとする唾液腺は外分泌腺に分類されます。耳下腺の腺房細胞において、交感神経興奮の結果、アミラーゼが開口放出により分泌されます。私たちの研究室では、実験動物(ラット、マウス、ウサギ、ハムスター)より摘出された耳下腺から、開口放出機能を保った腺房細胞を分離する技術を有しています。図2の写真のような分離したラット耳下腺腺房細胞に交感神経作動薬(イソプロテレノール)を作用させると、図3のグラフの◯に示ように時間依存的にアミラーゼ分泌が誘発されます。この研究手法は、腺房細胞を他の細胞(導管細胞や神経細胞など)から分離して細胞レベルでアミラーゼの分泌機構を検索することが最大の特長です。分離した腺房細胞を任意の条件下に置き、細胞そのものが持つ機能をクリアに検出することが可能になっています。
私たちの研究室では、分離した耳下腺腺房細胞のアミラーゼ分泌をモデルとして、外分泌腺細胞における開口放出の分子機構の解明を目指し、研究を進めています。