口腔生理学は、口腔の機能について研究する学問です。口腔には、食べることや味わうことのほかにも様々な機能が知られています。私たちの研究室では、特に以下のような機能について、国内外の他大学や研究所とも協力しながら、研究を進めています。

 

1. 摂食行動制御機構に関する研究

「今晩は、カレーライスを食べよう。」「いや、ラーメンがいいよ。」ありがたいことに私たちは、自分の食べたいものを自由 に選ぶことができます。では、この食べたいものを選ぶ基準はいったいなんなのでしょうか?日本に初めていらした外国人の方の中には、お刺し身や納豆を食べ るのに躊躇する方がいらっしゃるかもしれません。食物の選択には、それまでに食べてきた経験が大事な役割を果たしていそうです。実は、同じようなことが、 ヒト以外の動物にも見られることがわかってきました。私たちの研究室では、食物の選択を制御する脳内機構について、行動学的および神経生理学的な指標をも とに調べています。

 

2. 微量栄養素の摂取調整機構に関する研究

炭水化物や蛋白質そして脂肪というような三大栄養素の他に、私たちは多種のミネラルやビタミンなどの微量栄養素を摂取しなければなり ません。しかし、これらの栄養素は微量は必要ですが、多量に取り込むとむしろ良くない作用を発揮するものもあります。このような微量栄養素を“ちょうどい い塩梅に”摂取するために、生体はどのような機能を用いているのでしょうか?私たちの研究室では、このような微量栄養素の摂取調節機構を神経科学的、内分泌学的および行動学的な手法で調べています。

 

3. 味覚の受容機構と食品の識別に関する研究

私たちはどうして、砂糖をなめると甘く、食塩をなめるとしょっぱく感じるのでしょうか?それは、舌の上にある味細胞 がなんらかのしくみで、情報 を脳に送っているためと考えられていますが、その詳しい機構の解明は、いまだ十分に明らかとなっているとは言えません。私たちの研究室では、甘味やうま味 を味細胞がどのようにして感じることができているのかを調べるとともに、昆布ダシに鰹ダシを混ぜると味が強くなる効果(うま味の相乗効果)や、いわゆる 「コ ク」と呼ばれる現象が発生するしくみ、虫歯になりにくい甘味料の味物質としての作用についても調べるとともに、一般的な食品のように様々な味物質が混合さ れたり、温度や硬さ、粘度などの条件が組み合わさった場合に、私たちの脳がその食品の味をどのように認知し、識別しているのかを調べています。


4. 味覚の中枢機構に関する研究

いくらおいしいものを口の中にいれても、その味覚情報が脳(中枢神経系)にまで伝わっていかないと、私たちは実際に味を感じ取ることはできませ ん。私たちの研究室では、このような味覚を伝える経路にあたる様々な脳部位が、どのように味覚情報を処理しているのか、またそれらの細胞がどのような特徴を 有しているのかを組織学的、電気生理学的および行動学的な手法を用いて調べています。

 

5. 唾液の成分が味覚に及ぼす影響に関する研究

いつも口の中を覆っている唾液の中には、カルシウムなどの無機質のほか、いろいろな機能をもつ蛋白質などが含まれているこ とが知られています。私たちの研究室では、ストレスを受けた後の唾液中に、特に多量に発現する蛋白質を発見しました。また、甘い味を消し去る特殊な化学物 質を食べた後の唾液には、この物質の効力を弱める働きのある蛋白質も発現しているようです。現在、この蛋白質がいったいどのような構造をしているのか、ど のようなしくみで働くのかを調べています。

 

6. 歯科診療に係る心理生理学的事項に関する研究

歯科診療には、多くの心理生理学的な側面が常につきまとっています。たとえば、歯科診療を受けるのが楽しくてしかたないと いう方は、あまりいらっしゃらないと思います。高度な治療技術が発達した現在でさえも、歯科診療には、どうしても患者様を不快にさせる様々な要因が存在す るようです。また、歯科治療には常に「審美」という側面がついてまわりますが、これも、多分に心理学的な問題が重要な要素となるはずです。しかしながら、 このような歯科診療に関わる様々な心の問題に対する科学的な検討は、まだまだ始まったばかりです。私たちの研究室では、このような歯科診療に関わる不快感 や審美性といった「心の中の問題」に科 学的なメスを入れるべく、学内外の心理学や臨床医学の先生方と共同で研究しています。



口腔生理学分野では他分野所属大学院生も参加した研究を行っています。(各大学院生の研究テーマはスタッフページに記載してあります。)
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また、将来、歯科医学の研究者を目指したい学部生のみなさんに対しても、研究室見学やご相談を随時受け付けています。同様に当分野スタッフまでお声がけください。