航空無線受信機の製作 その2




 以前、ゼミで、100円ラジオを改造して携帯型のエアバンドラジオを作ったことがありました。

 今回は、部屋に置いて使用する、航空無線受信機を作ってみることにします。

 まず、使用するパーツの選定です。高周波まわりは、FMラジオ用ICのフロントエンド部分を利用することにします。今回は、東 芝のTA7792Pを使用することにしました。高周波増幅、局部発振、周波数変換の3つが一括して行えます。中間周波数は2MHz程度とし、FCZの1.9MHz用のコイルをIFTの代わりに用いることとします。中 間周波増幅とAM検波は、三洋のLA1800を用いました。最後に、低周波増幅は定番とも言える、ナショセミのLM386を使用しています。



 回路を設計するに当って、まずは、TA7792Pの局部発振回路の特性を測定することから始めなければなりませんでした。どのようにコイルとコンデン サーを組み合わせれば、目的の 周波数で発振するのか、それを実験する必要がありました。今の場合、中間周波数を2MHzに取るので、仮に受信周波数を118MHzから126MHzとすれ ば、局部発振周波数は120MHzから128MHzとなります。コイルとしては、5mmφの空芯コイル4.5回巻きを用いることし(インダクタンスは 0.09μH程度と推定されます)、コンデンサーを色々変えて、発振周波数を実測しました。その結果が下表です。

 C (pF)
7
9
10
12
15
18
22
 f (MHz)
130
120
116
111
109
103
93

 TA7792Pの内部容量が9〜10(pF)程度あると考えると、当たらずとも遠からず程度には理論と一致します。つまり、

f = 1 / (2*3.14*sqrt(L*(C+9)))
程度となります。

 局部発振周波数として120MHzから128MHzとしたいので、コンデンサーの容量としては、7から9(pF)程度とすればよいことになります。

  コンデンサーとしては、可変容量コンデンサー(バリキャップ)の1SV101を用いることにします。1SV101の電圧−容量の関係は、データシートを 見 ればグラフが掲載されているのですが、いちいちグラフを見て値を読み取っていたのでは大変です。そこで、1SV101の容量と電圧の関係を、式で表すこと を考え付きました。エクセルを利用して何度かの試行錯誤の後、容量Cと電圧Vは、大体以下の式で表されることが分かりました。

C = exp(3.82-0.21*V)+6

 ここに、Cは(pF)単位、Vは(V)単位です。また、exp(x)は自然対数の底(e=2.718…)に対する指数関数を表します(理科系の人は、高 校3年生で微積分をやると習いますね!)。

 バリキャップに加える電圧は、5(V)から10(V)の範囲とします。あまりに電圧が低いと、バリキャップの特性(Q値)が低下します。また、あまりに 電圧が高いと扱いづらいですし、1SV101の最大逆方向電圧は15(V)ですので、いずれにせよ、15(V)以下となります。そこで、5(V)から10 (V)という電圧範囲を設定したわけです。この電圧範囲で、所望の周波数に合わせたいと考えました。つまり、バリキャップの電圧が5(V)付近で受信周波 数が118(MHz)付近、10(V)付近で受信周波数が126(MHz)付近となるようにします。そのためには、1SV101と15 (pF)を直列に接続したものをコイルと並列に入れて同調回路としてやればよいことがわかりました。以下は、その計算結果です。 ただし、L=0.09(μH)として計算しています。

1SV101の電圧(V)
5
6
7
8
9
10
1SV101の容量(pF)
22.0
18.9
16.5
14.5
12.9
11.6
15(pF)との直列容量(pF)
8.9
8.4
7.9
7.4
6.9
6.5
局部発振周波数(MHz)
119.0
120.8
122.7
124.4
126.2
127.8
受信周波数(MHz)
117.0
118.8
120.7
122.4
124.2
125.8

 この結果を元に、回路を設計します。



 設計した回路は、以下のようになりました。図中、容量表示のないコンデンサーはすべて、104(0.1μF)です。




 では、この回路について、一通り説明しておきます。

 まず、アンテナで受信された信号は、L1とC1の同調回路を利用したバンドパスフィルターにより不要な信号を除去した後、TA7792Pの16ピンに入 力されます。アンテナは、長さ数10cmのビニール線で充分です。ループアンテナのようなものは、却ってNGです。

 16ピンから入力された信号は、TA7792Pの内部で1段高周波増幅されます。L2とC3による同調回路により、所望の周波数の信号だけを選択的に増 幅します。欲を言えば、C1、C3も可変コンデンサーにして、受信周波数を追尾するようにすると良いのですが、このような簡易受信機でしかも受信周波数の 範囲がそれほど広くない場合は、このように固定コンデンサーでごまかしてしまっても、それほど影響はありません。どうしても気になる場合は、片方の同調回 路を受信帯域の上のほう、もう片方の同調回路を受信帯域の下のほうに合わせる、いわゆるスタガ同調にして、受信帯域内の特性をある程度フラットに近づける こともできます(が、本機ではそこまでしていません)。

 TA7792Pの3ピンは、局部発振回路です。ここに、L3とバリキャップを接続します。バリキャップは、前項での計算を踏まえて、15(pF)と直列 に接続します(C4)。このC4は、直流電圧カットの役割も兼ねています。バリキャップの制御電圧は、R1を通じて、電源回路から供給されています。

 TA7792Pの2ピンと10ピンは、Vcc(電源の+)に接続します。実は、2ピンだけをVccに接続しても発振はするのですが、高調波を多く含ん だ、歪んだ波形になります(これを逆手にとって、逓倍回路に応用できるでしょうか??)。2ピンと10ピン両方をVccに接続すると、きれいな正弦波の波 形が得られます。この局部発振信号が、TA7792P内部の周波数変換回路に加えられ、高周波増幅された入力信号と混合されて、中間周波となって14ピン から出力されます。

 中間周波は、L4とC8のIFTで2MHzの成分だけとなって、LA1800の22ピンに入力されます。C10はAGC(自動利得調整)回路の時定数設 定用で、ここでは0.1μFを用いましたが、もっと大きな値のコンデンサーでもかまいません。

 LA1800はAMとFM両用のICなのですが、航空無線はAMですので、FMモードは使いません。そのため、多くのピンが無接続となっています。最 初、2ピンに何も接続せずにやっていたのですが、極端に感度が悪く、原因不明で悩んでいました。どうやら、2ピンには増幅回路のバイパスコンデンサーを接 続しなければならないようで、試行錯誤の後にこのことに気づいて、C9を接続することで無事解決しました。

 検波出力は14ピンから出力されます。そのままですとかなりノイズが多く、耳障りな音質となりますので、C11(0.1μF)を接続して、高音域をカッ トしています。ノイズは大幅に減少しましたが、それと同時に、相当柔らか目の音質となってしまいました。C11の容量を減らすと堅めの音質となりますの で、好みでここには0.047μFなどを使ってもかまわないと思います。0.01μFあるいはそれ以下まで下げますと、さすがにノイズが気になってきます。

 最後に電源回路ですが、LM386には瞬間的に大電流が流れる可能性があるので、電源は平滑回路から直接取り出し、R4(22Ω)でデカップルして供給しま す。TA7792PとLA1800は、3(V)のレギュレータで安定化した電源を供給し、TA7792Pの局部発振信号が回り込まないように、念のため に、L5で高周波を遮断しておきます。

 バリキャップ1SV101に供給する電圧は、レギュレータで10(V)に安定化したものを用いますので、レギュレータへの入力電圧は最低でも15(V) 程度の電圧が必要となります。これは、D2、D3とC18、C19、C20を組み合わせて作った3倍圧整流回路により、電源トランスの2次側電圧を 3倍に昇圧して作り出しています。

 以上が、設計した回路の概観となります。


 これが、製作した基板です。



 写真右奥のICがTA7792P、その右横のコイルが局部発振用のコイルであるL3です。一方、TA7792Pの手前に見えるコイルはL2です。L2、 L3はともに、錫メッキ線を5mmφのドライバーに4.5回巻いて作った空芯コイルです。

 基板中央手前のICはLA1800で、ピンのピッチが狭いのでこのように斜めに取り付けま す。その向こう側、シールドケースに入ったコイルがFCZ1.9、そのさらに向こう側のコイルがL1です。L1は5mmφ、3.5回巻きです。L1とL2 は同じ周波数を扱いますので、互いに結合しないように、基板上でなるべく離して、かつ、互いに直角の向きに配置します。

 これに関連して、ちょっと余談ですが、L1とL2はいずれも同じ周波数(受信周波数)の信号を扱うのに、どうしてコイルの巻き数が違うのでしょうか?実 は、それには、2つの理由があります。1つは、TA7792Pの高周波入力である16ピンは、直流的にグランドから浮かせる必要があり、そのために、C2 を間に挟んでいます。しかし、L1から見ると、C1のみならず、C2(厳密には、C2とTA7792Pの16ピンの入力容量とを直列にしたもの)も並列接 続されているように見えます。つまり、実質的には、コンデンサーの容量は大きくなり、その結果、同調周波数は低めに出ます。それを補正するために、わざ と、コイルのほうの巻き数を減らしたわけです。

 しかし、同調周波数を補正するだけならば、L1の巻き数は同じで、C1の容量を少し小さくする、という方法もあります。もちろん、それでも一向に構わな いのですが、同調回路の特性として、Lが大きくCが小さい組み合わせよりも、Lが小さくCが大きい組み合わせの方がQ値が低く、同調特性がなだらかになり ます。この同調回路は単なるバンドパスフィルターですから、あまりにシャープな特性よりは、少しぐらい緩やかな特性の方がベターであろうと考え、このよう にしました。

 L2とC3の同調回路については、TA7792Pの1ピンとの間にコンデンサーをはさむ必要がない(はさんではいけない)ので、このような心配はありません(それでも、実際には、1ピンの内部容量分はあるのですが)。

 基板左側のICは、低周波増幅のLM386です。このICは充分な増幅率がありますので、検波出力をボリュームで音量調整したものを、直接入力しても構いません。あまり過大な入力を加えますと、動作が不安定になりますので要注意です。

 電源部は別基板に作りましたので、写真は省略します。



 出来栄えはなかなか良好で、長さ50cmほどのビニール線を窓の外に垂らしたアンテナでも、当地岐阜県から、セントレア(中部国際空港)に離発着する航 空機と管制官との交信が良く聞こえました(ただし、大学の研究室ですので、地上6階の位置にあります。地上では、長さ50cmのアンテナでこれほどクリ アーに受信するのは、少し苦しいかもしれません)。

 LA1800の感度は充分で、また、AGCも良好にかかっていますので、航空機の音声と管制官の音声がほとんど同じ大きさに聞こえます。以前作ったエア バンドラジオ(100円ラジオを改造したもの)では、AM検波にLMF501Tを用いたのですが、このICのAGCはあまりレンジが広くなく、航空機の音 声は大きく聞こえても、管制官の声は小さくしか聞こえませんでした。今回の受信機では、そのようなことはありませんので、自分でも満足しています。





 ゼミ作品に戻る。