警告(重要)!
|
はじめに
以前、移動中にもノートパソコンを長時間使用したいと思い、「ノートパソコンを鉛バッテリで駆動する」という記事を発表しました。これは、12.6Vの 鉛バッテリをチョッパ回路で16Vに昇圧し、ノートパソコンのACアダプタ端子に印加することによりノートパソコンを鉛バッテリで駆動するというものでし た。
しかし、この方法では、チョッパ回路を介在させるため、どうしても効率の点で不利になってしまいます。もしも鉛バッテリとノートパソコンとを直結 できれば、何らの追加回路も必要とせず、しかも100%の効率でノートパソコンを駆動することができます。
ノートパソコンには、10.8(V)のリチウムイオンバッテリが取り付けられるようになっていますから、理屈の上では、12.6(V)の鉛バッテリを直 結できるはずです。しかし、ACアダプタ端子に鉛バッテリを直接つないでみても、ノートパソコンはうんともすんとも言いません。
ならば、ノートパソコンのリチウムイオンバッテリパックを外し、ノートパソコンのバッテリパック用端子に直接鉛バッテリを接続するしかあ りません。しかし、この端子はピンアサインや内部回路に関する資料がなく、どのように接続すればよいのか見当もつきません。
一歩間違うと、ノートパソコンを壊してしまう可能性のある危険な作業となり ますが、ピンアサインを何とか推測する必要がありそうです。そこで、以前中古で買った古いノートパソコン(壊れても諦めがつく)を実験台に 選びました。以下にその写真を示します。
富士通の、FMV-6266NS3/X という機種です。相当昔の機種です。
以下に、そのバッテリパック用端子を示します。ピン番号は私が勝手に付けたものです。プラスチック板によって他と隔てられている端子を仮に@番ピンとし て、下図のように番号を割り振りました。
ピンアサインの推測の手順は、以下のようにしました。
まず、テスターを200Ωレンジにし、ノートパソコンの筐体の金属部分と、上記の各ピンとの間の導通を測定します。その結果、@番ピンとA番ピンが金属 部分とほぼ0Ωの導通があることが分かりました。どちらかがGND端子のようです。どちらかは分かりませんので、当てずっぽうで接続することになります。 ただし、上の写真をよく見ると、@番ピンとI番ピンとは、端子の形状が他のピンよりも若干大きくなっています。これは、大電流が流れるからではないかと推 測できます。そこで、@番ピンが電源のGNDであると仮定してみます。そうすると、I番ピンは電池の+かも知れません。A番ピンはもしかす るとバッテリパックと の通信信号のGNDかも知れませんが、それだとすると内部基板上のパターンが細い線になっているはずですので、電源の−端子として使用することは適切では ないことになります。
次に、テスターを200kΩレンジに切り替え、再び各端子と筐体金属部分との導通を測定します。その結果、D番ピン、E番ピン、F番ピンと金属部分との 間には、数十kΩの導通があることが判明しました。
続いて、ノートパソコンにACアダプタを接続し(ノートパソコンの電源は入れなくてもよい)、@番ピンと他の端子との間の電圧を測定します。その結果、 D番ピン、E番ピン、F番ピンには3.3(V)の電圧が出ていることが分かりました。
上記二つの結果を総合し、これらの端子は、バッテリパックからの信号をノートパソコンが受けるための入力端子であると推定しました。数十kΩの抵抗に よって、3.3(V)のバスにプルアップされて、Hの状態になっているものと考えられます。
そこで、これらの端子を、1kΩ程度の抵抗でプルダウンし、端子の状態をLにしてやるとどうなるのかを実験しました。その結果、E番ピンがバッテリ検出 端子であることが判明しました。この端子がLになると、バッテリが接続されていると判定しているようです。以下は、E番ピンと@番ピンとの 間に1kΩの抵抗を入れたときの画像です。バッテリマークが表示されました。
この状態で、再び、@番ピンと各ピンとの間の電圧を測定します。すると、先ほどまでは電圧が出ていなかったI番ピンに、16(V)の電圧が出力されるよ うになりました。ACアダプタからの電圧です。そこで、I番ピンは、予想通り、電源の+端子であろうと結論付けました(後述するように、この結論が曲者で した)。
そこで、ACアダプタを取り外し、代わりに鉛バッテリの陽極をI番ピンに、陰極を@番ピンに、また、E番ピンと@番ピンを1kΩで接続しました。果たし て、ノートパソコンは起動するでしょうか。
結果は、NOでした。残念ながら、この接続ではノートパソコンは起動しなかったのです。さあ困りました。ピンアサインの推定は間違ってい たのかもしれま せん。
ここからはある意味でラッキーであったのですが、いろいろな接続を試しているうちに、実験に使っていたミノムシクリップが、たまたまH番ピンに触れて、 I番ピンとH番ピンとがショートしてしまいました。すると、ノートパソコンが起動したのです。このラッキーな事故(!?)のおかけで、必要な接続が判明し ました。以下のように接続する必要があったのです。もしかすると、I番ピンはバッテリへの充電電圧出力、H番ピンはバッテリからの電源入力かも知れません が、詳しいことは結局分かりませんでした。でも、とにかく、この接続でノートパソコンは起動します。
接続方法が分かりましたので、次に、動作可能な電圧範囲を調べてみました。元々、10.8(V)のリチウムイオンバッテリを接続するための端子ですか ら、鉛バッテリよりも低い電圧でも起動するはずです。
実験の結果、このノートパソコンは、9(V)から17(V)の範囲の電圧ならば起動することが分かりました。そこで、少し余裕を見て、10(V) 〜16(V)の電圧範囲で使用することにします。
そこで、面白いことを思いつきました。乾電池の初期電圧は約1.5(V)、放電終了電圧は約0.9(V)ですので、乾電池を10本直列にすれば、上記の 電 圧範囲に入ります。つまり、ノートパソコンを乾電池で駆動できるのではないか、という考えです。
長い長い前置きでしたが、このような経緯を経て、乾電池でノートパソコンを駆動する実験が始まったのでした。
単3乾電池10本でノートパソコンを駆動する
ここからが本題です。まず、100円ショップで単3アルカリ乾電池を10本買ってきました。
次に、もう使えなくなったリチウムイオンバッテリパックを分解し、コネクタを取り出します。そして、そのコネクタを、前節の接続図の通りに加工します。 と言っても、1kΩの抵抗を取り付けて、電池ボックスに配線するだけです。@番ピン、H番ピン、I番ピンは大電流が流れますので、半田を充分に盛っておき ます。
このコネクタを、ノートパソコンに接続します。装着した写真を以下に示します。
ノートパソコンは、起動時に特に大電流が流れます。乾電池は内部抵抗が大きいので、大電流が流れると電圧が低下して、ノートパソコンが起 動しないかもし れません。ですので、少しでも電流を節約するために、ディスプレーの輝度を下げてから起動することにしました。
電源スイッチを入れます。電源が投入されたマークが表示されました。
ご覧のように、単3乾電池10本で、ノートパソコンは無事起動しました。
乾電池は新品ですので、10本直列では15(V)のはずですが、電圧計は12(V)を示しています。約3(V)の電圧降下があることになります。乾電池 1本当りの内部抵抗が0.3Ω、消費電流が1 (A)と考えれば納得がいきます。
この状態で、ノートパソコンを何分駆動することができるのかを実験してみます。ディスプレーの輝度は最低にし、OS(Puppy Linux です)を立ち上げただけの状態で放置して、電圧低下により勝手に電源が落ちるまでの時間を測定します。
実験開始後、約20分を経過した時点での電圧です。10(V)を下回り、電池がほとんど消耗してきました。
実験開始後25分で、ノートパソコンの挙動が不安定になってきました。輝度はもともと最低に絞ってありますが、それがさらに暗くなり、しかも、輝度が脈 動するようになってきました。また、ノートパソコン内蔵のスピーカーから、ジーというノイズが発生し始めました。
実験開始後30分、ついに、ノートパソコンの電源が落ちました。単3乾電池の10本直列で、ノートパソコンを30分間駆動する実験に成功し たのです。
実験終了直後の乾電池の温度です。大電流での連続放電により、電池の温度が45℃まで上昇していることが分かります。
これで実験は一応成功ですが、ひとつだけ気になることがあります。それは、乾電池での使用中に、ACアダプタをノートパソコンに接続してもよいかどうか という点が未確認であることです。
乾電池の使用中に、ACアダプタを接続すると、以下の写真のように、充電マーク(電池の左側の矢印)が表示されます。ノートパソコンが、乾電池をリチウ ムイオン電池と誤認して、充電しようとするかもしれません。これは大変危険なことです。
乾電池とノートパソコンとの間にダイオードを入れておけば誤充電を防げますが、逆に動作時にダイオードの順方向電圧分だけ電圧をロスします。乾電池での 動作は元から電圧がタイトですので、あまりうれしいことではありません。
そこで、実際に乾電池とノートパソコンとの間に電流計を挿入し、誤充電が発生するかどうかを確認してみました。私が実験した範囲内では、充電マークが表 示されてもノートパソコンから乾電池への電流の逆流は発生していませんでした。つまり、単に表示だけの問題であり、実害はないということになります。
このように、一応、問題はないという結果が得られましたが、念のために、やはり乾電池とACアダプタとの併用は避けたほうが無難であると 思います。
別の機種での実験
富士通FMV-6266NS3/Xでの実験が成功しましたので、同じく富士通製のノートパソコンである、FMV-BIBLO MG75Gでの実験を行ってみます。
FMV-BIBLO MG75Gのバッテリパック端子です。FMV-6266NS3/Xと全く同じピン数、同じ形状の端子となっています。しかし、FMV-6266NS3/X と同じ接続で は、パソコンは起動しませんでした。
そこで、端子の解析を行いました。その結果、(FMV-6266NS3/XのようにE番ピンではなく)FMV-BIBLO MG75GではF番ピンをプルダウンする必要があることが分かりました。このように、同じメーカーの同じ形状の端子であっても、機種によってピンア サインが異なっていることがあるので、充分な注意が必要です。
そこで、両機種で共通に使用できるように、コネクターを以下のように加工しなおしました。FMV-6266NS3/XにおけるF番ピン、ならびに FMV-BIBLO MG75GにおけるE番ピンの意味は不明ですが、このようにプルダウンしても問題ないようです。
加工後のコネクターの写真です。
これを、FMV-BIBLO MG75Gに装着しました。
FMV-BIBLO MG75Gは消費電力が大きいので、乾電池ではなく、パソコン用の電源(実は、ATX電源ではなく、AT電源です!)の12(V)を用いて駆動する実験を 行いました。問題なく起動しました(OSはUbuntu)。
さらに別の機種での実験
富士通製の2機種での実験に成功しましので、他社製のノートパソコンでの実験にも挑戦しました。用いたのは、パナソニック製のCF-02というノートパ ソコンです。
裏面を見ると、外部電源15.1(V)、リチウムイオンバッテリ10.8(V)の表示があります。これならいけそうです。
CF-02のバッテリパック端子です。富士通製の2機種とは異なり、8ピン仕様となっています。
同様の手法で解析し、以下の接続を見い出しました。
このノートパソコンのバッテリパックは紛失してしまっており、コネクタが手に入りませんでしたので、代わりに、ファストン端子(平型端子)を用い て接続 しました。以下はその写真です。
このノートパソコンは、鉛バッテリで駆動してみました。15.1(V)のACアダプタ電源端子に鉛バッテリを接続しても起動しませんが、リチウムイオン バッテリパック用端子に接続した場合は問題なく起動しました(OSはWindows XP)。鉛バッテリの上のラジケータは、電圧のモニター用です。鉛バッテリの放電終止電圧は10.5(V)ですが、バッテリパック端子は9(V)台になっ てもパソコンを動作させ続ける能力がありますので、過放電防止用です。
起動不良対策
以上で大体予備実験は終了ですが、まだもう一つ問題点があります。放電末期のアルカリ乾電池のように、内部抵抗の大きな電源を用いた場合、瞬間的に大電 流が流れたと きに電圧降下を起こし、その一瞬の電圧降下のためにノートパソコンが動作しなくなるのです。それほどの大電流は、主に起動時に流れます。つまり、へ たりかけの乾電池を使用した場合は、起動途中で電源が落ちてしまうことがあるのです。但し、一端起動してしまえば、その後は問題なく使用できま す。ま た、起動途中で電源が落ちてしまった場合、一度電池を取り外して回路をリセットしなければ、電源の再投入ができません(ノートパソコンのメインスイッチを 切るだけではダメなようです)。
そこで、電源のインピーダンスを下げる必要が出てきました。以下のように、コンデンサを入れることにします。新品の乾電池しか使用しない場合や、内 部抵抗の小さいニッケル水素電池や鉛バッテリで使用する場合は、このコンデンサは省略可能でしょう。
実験中の様子です。@番ピンとH番ピンとの間に色々な値のコンデンサを入れて実験しています。
その結果、コンデンサの容量は最低でも470μF、できれば1000μF以上ほしいことが分かりました。220μF程度では効果がありませんでした(起 動途中で電源が落ちるのを防止できません)。コ ネクタへの取り付けやすさを考えると、リード線が両端から出ているチューブラ型の方が良いと思われますので、手持ちを探したのですが、1000μFは研究 室にはありませんでした。そこで、暫定的に、470μF 35(V)で代用することにしました。
ノートパソコンのバッテリパック端子に取り付けたところです。
この改良を施すことにより、ある程度消耗した乾電池からでも起動可能となりました。
単1乾電池による駆動実験
以上の予備実験を経た後、単1乾電池10本による駆動実験に入りました。
単1乾電池6本用の電池ボックスと、4本用の電池ボックスを用います。
念のため、3(A)のヒューズも設置しました。
実験に使用するノートパソコンは、以前発表した 「ノートパソコンを鉛バッテリで駆動する」の 実験結果と比較するために、FMV-6700MF9/Xを用いました。OSはWindows 2000です。
実験開始直後の様子です。ノートPCは順調に起動しました。電池電圧はほぼ14(V)あります。
起動直後、バッテリ残量低下の警告が表示されますが、無視して構いません。
バッテリ残量を確認すると、0%の表示になっています。この接続では、バッテリ残量に関する情報をやり取りできないのが原因です。
実験開始から4時間20分が経過した状態です。電池電圧は9.4(V)まで低下しましたが、まだ何とかがんばっています。ただ、この状態 で、CPUの稼働率が上がったり、ハードディスクにアクセスしたりすると、途端に電圧は8(V)台まで低下し、ノートPCの動作が不安定になります。アル カリ乾電池は内部抵抗が大きいため、少し電流が増えただけでも、すぐに1(V)程度の電圧降下を起こします。ですので、その電圧降下分も見込んで考えるな らば、実用的に使えるのはせいぜい電池電圧10(V)ぐらいまででしょう。
経過時間と電池電圧との関係を、表ならびにグラフで示します。
経過時間
電池電圧
(単1アルカリ乾電池
10本直列)
実験開始前
16.13(V)
0分
14.09(V)
10分 13.51(V)
20分 13.10(V)
30分 12.76(V)
40分 12.45(V)
50分 12.18(V)
60分 11.96(V)
70分 11.77(V)
80分 11.59(V)
90分 11.42(V)
100分 11.24(V)
110分 11.09(V)
120分 10.95(V)
130分 10.80(V)
140分 10.69(V)
150分 10.60(V)
160分 10.51(V)
170分 10.43(V)
180分 10.36(V)
190分 10.29(V)
200分 10.20(V)
210分 10.10(V)
220分 9.98(V)
230分 9.84(V) 240分
9.70(V)
250分
9.55(V)
260分
9.39(V)
上のグラフを見ると、経過時間が200分を越えたあたりから、電圧の低下率が大きくなっていることが分かります。また、このあたりから、電池がほのかに 暖かくなってきました。電圧も、大体10(V)付近まで下がっています。以上より、このノートパソコン(FMV- 6700MF9/X)は、単1乾電池10本で3時間半ほど実用的に駆動可能、と結論しました。
上記は、OSを立ち上げただけの状態(CPUはほぼアイドル、ディスクアクセスもほとんどない)での測定結果ですので、実際の使用では、駆動時間はさら に短くなるものと予想されます。そこで、ノートパソコンを実際に乾電池で使用してみることにしました。それが以下の報告です。
使用感
最近、沖縄で学会がありましたので、これは絶好のチャンスとばかりに、早速単1乾電池10本を持ち込んで、往復の機内でノートパソコンを使用してみるこ とにしました。鉛バッテリは危険物に指定されてお り機内持ち込みはできませんが、乾電池は非危険物となっており、数量制限なく国内線の機内に持ち込みできます(国土交通省のホームページに 掲載されていま す。なお、国際線の場合は外国の法律も絡んできますので、この限りではありません)。
機内でパソコンを使用しているところです。私のパソコンのように、もう付属のリチウムイオンバッテリパックが死んでしまった中古パソコンでも、ACコン セントのないところで使用できるのはありがたいことです。
同じく、正面からの写真です。
![]()
また、電池電圧をモニターするためのラジケータを設置しました。以下の定数で、ゼロスケールが9(V)、フルスケールが16(V)となりました。D1は普 通のシリコンダイオード、D2は9(V)のツェナーダイオードです。
電池動作時の、ラジケータの表示例です。
結局、沖縄までの2時間余りの往復フライト中と、さらに帰りの電車内でもパソコンが使用できました。離着陸時の電子機器使用禁止時間を除いても、往復の フライト中に各1時間半ずつと、帰りの電車内で1時間、合計4時間はパソコンを使用したことになります。単1乾電池によるパソコン駆動実験の結果として は、充分に満足できるものであったと思います。
おまけ1
車のシガーソケットに取り付けてみました。
車内でパソコンを使用しているところです。
おまけ2
さらにこの続きとして、単3ニッケル水素電池池10本を用いてノートPCを駆動する実験も行いました。