ノートPCを鉛バッテリで駆動する




シールドバッテリ


 私は、実家に帰るのによく電車を利用します。実家まで4時間ほどかかるので、電車内でも仕事をしたいと思い、ノートパソコンをバッテリで駆動す る方法に ついて考えてみました。

 バッテリ駆動ですので、消費電力の少ない機種のほうが有利です。ですので、使用するパソコンは、中古で買った旧式のノートパソコンに決めました。当然な がら、パソコンに付属のバッテリパックは使用不能となっています。重たいだけですので、バッテリパックは外してしまいました。

 実家までの道中、乗り換え時間などを除くと、バッテリは実質3時間ぐらい持つ必要がありそうです。パソコンの取説によると、容量3(Ah)の純正バッテ リ パックでの駆動時間は標準で約2時間となっています。ですので、3時間駆動を目指すならば、容量5(Ah)以上のバッテリが必要と思われます。

 リポ電池は充電時の電圧・電流要件がシビアなので却下し、ニッケル水素電池の利用を考えました。しかし、ニッケル水素電池はメモリー効果がある上に、内 部抵抗が大きい、価 格がも高いなどの欠点があるので、採用を見送りました。そうなると、残るのは鉛バッテリです。鉛バッテリならば大電流が流せますし、メモ リー効果はありません。また、充電するのも気が楽 です。シールド型の鉛バッテリならば液漏れもないし、価格も非常に安く販売されています。唯一の欠点を挙げるとすれば、重いことでしょう(ただし、以下に 述べるように、 実 際はそうでもないことが後で判明しました)。

 方式が決まれば、早速、バッテリの買い出しです。近くのラジコンショップでバッテリを購入しました。容量7(Ah)のスターター用シール ド バッテリで、価格 は2980円でした。重量は2kgほどで、思ったよりも軽くてびっくりしました。これなら、リュックサックに入れて持ち歩くのは楽勝でしょう!単一の ニッケル水素電池を10本直列にしても、ほぼ同電圧同容量の電源が得られますが、単一のニッケル水素電池は一個約170gの重量がありますので、電池ホル ダー の重量なども合わせると、10本直列では約2kgの重量となります。そのように考えると、鉛バッテリが必ずしもニッケル水素電池に比べて重いというわけで もないことがわかりまし た。





昇圧回路の設計と製作


 続いて、このシールドバッテリを用いてノートパソコンを実際に駆動する方法について考えます。使用するノートパソコンの電源電圧は16V、ジャックの形 はEIAJ極性統一プラグの5番となっています(Fujitsu、Panasonic、NECなどのノートパソコンの古い機種に採用されています)。

 まず、バッテリをノートパソコンの電源端子に直接つないでみます。起動してくれないか、と淡い期待を抱いていたのですが、やはり16V入力のノートパソ コンに、12.6Vのバッテリでは電圧が低すぎるようで、まったく起動しませんでした。

 ノートパソコンのバッテリパックは、電圧10.8(V)のリチウムイオン電池ですので、鉛バッテリをバッテリパック用の端子に接続すれば、もしかすると 起動するかもしれません。しかし、バッテリパック用の端子はピンアサインや内部回路が全く分かりませんので、あえて冒険しませんでした。

 そうなれば、12.6Vを16Vに昇圧するしかありません。チョッパー用IC、MC34063Aの出番ですね。

 以下が、設計した昇圧回路です。ごく普通の昇圧型チョッパー回路となっています。



 この回路について、簡単にご説明します。MC34063Aは、チョッパー回路の定番ICです。このICは、最大電流1.5(A)にまで対応 しています。しかし、使用するノートパソコンは、実測で、2(A)近い電流を消費することが分かりました。16(V)2(A)の出力を確保するために は、昇圧回路の効率なども考慮すると、入力として12.6(V)3(A)程度が必要と思われます。つまり、MC34063Aの最大電流の2倍の電流容量が 必要であることになります。そこで、スイッチング用MOS-FETである2SK2507を用いて、電流をブーストすることにしました。以下に、 2SK2507の特性を掲げておきます が、ドレイン電流が25(A)もありますので余裕です。これ以外にも、スイッチング用と書かれたON抵抗の低い品種ならば、ほとんどのMOS-FETが 使用可能と思います。


ドレイン耐圧
ドレイン電流
ON抵抗
ゲート入力容量
2SK2507
50(V)
25(A)
34(mΩ)
900(pF)

 出力電流が大きいので、L1は大きめのコアのパワーインダクタとしました。電流を稼ぐために、インダクタンスは小さめにします。ここでは、80(μH) を用いています。昇圧回路ですので、C2は降圧回路よりも大きめの1000(pF)としています。2SK2507のゲート容量はそれほど大きいわけではあ りませんが、念のために、2SC1815と2SA1015のSEPP回路によってドライブします。このとき、ベース側の抵抗R3(実際には、 MC34063Aの内部トランジスタをエミッタフォロアで動作させる際のエミッタ抵抗)を1(kΩ)未満に設定しなければ、Q1とQ2、ひいては、Q3を ス ムーズにドライブできません。ですので、ここでは、R3を470(Ω)に設定しました。また、入力側には瞬間的にかなり大きな電流が流れますので、電流制 限抵抗R2はかなり小さく、0.082(Ω)としました。D1は電池の逆接防止用ダイオード、D2はチョッパーを構成するダイオードで、ともにショット キーバリアダイオードを用います。このダイオードはかなり発熱しますので、電流容量10(A)程度で、放熱器が取り付けられる パッケージ(TO-220など)の製品にします。本機では、STPS20H100CFPを用いました。電流値が大 きいので、順方向電圧の大きなファーストリカバリダイオードは不適で、必ずショットキーバリアダイオードを用います。

 ラジケータM1はバッテリ電圧を監視するためのもので、ゼロスケールが11(V)となるように、D2(11Vのツェナーダイオード)を入れています。ま た、 フルスケールが14(V)となるようにR1を選定します(私が購入したラジケータの場合は、4.7(kΩ)となりました)。6セルの鉛バッテリの場合、満 充電電圧は13.7(V)、完全放電電圧は10.5(V)ですので、その範囲をカバーするように設定します。ただし、鉛バッテリは過放電に弱いの で、故意に、完全放電の少し手前の11(V)でラジケータがゼロを示すようにしてあります。接続する相手がパソコンですので、突然電源を切るわけにも行か ないので、バッテリ電圧の低下を検知して自動的にシャットダウンする機能(過放電に対する保護機能)は入れていません。あくまで、人間がラジケータの針を 時々モニターしてバッテリの 減り具合を確認し、手動で電源切断するようになっています。

 上記の昇圧装置を実際に製作した写真は以下の通りです。調整は、半固定抵抗を回して出力電圧を16(V)に設定するだけです。Q3の2SK2507はほ とんど発熱しませんが、念のために放熱器に取り付けました。また、D1とD3は非常に発熱するので、アルミケースに直接取り付けています。





 実験中の様子です。ノートパソコンが無事起動しました。






充電器の設計と製作


 バッテリ駆動の実験が成功しましたので、次は、充電器について考えなければなりません。充電器については、単体の充電器を開発するのではなく、パソコン に付属しているACアダプタから出力される、DC16(V)を流用することを考えました。

 鉛バッテリの充電は、一般に定電流・定電圧方式で行われます。ある電圧(充電終止電圧)までは定電流で充電し、それ以降は充電電流を漸減 しなが ら、充電 終止電圧で定電圧充電する方式です。充電電流が充分に少なくなれば、充電完了です。これを、充電時間を横軸にとったグラフで表すと、以下のようになりま す。充電電圧が青線で、充電電流が赤線で表されています。



 以下は、製作した簡易充電器の回路図です。LM317Tを用いた定電流回路となっています。また、バッテリを充電しながらPCが使用でき るように、ノー トパソコンへの電源供給端子を分岐させています。



 この回路の電流値は1.25/R1で求められます。本機の場合は、1.25÷1.8=0.7(A)です。容量7(Ah)のバッテリに対しては、0.1C の充電電 流と言うこ とになります。R1は使用中にかなり発熱するので、3W型を用いました。D1はバッテリからの逆流防止用ダイオードで、なるべく順方向電圧の小さなショッ トキーバリアダイオードを用います。充電電流は小さいので、1(A)タイプでも充分でしょう。

 M1は充電電流をモニターするためのラジケータで、フルスケールが700(mA)となるようにR2を調整します。一方、M2はバッテリ電圧をモニターす るためのラジケータで、フルスケールが14(V)となるように、R3を調整します。本機の場合は、R3は12(kΩ)となりました。11(V)のツェナー ダイオードD2と直列にしていますので、これで、 11(V)から14(V)までを読めるようにります。しかし、このままでは、バッテリをはずした状態でACアダプタを接続すると、M2には14(V)を 超える電圧がかかって針が振り切れてしまいます。そこで、ショットキーバリアダイオードD3を並列に接続し、リミッターとしています。

 先ほど、シールド型の鉛バッテリは定電流・定電圧方式で充電すると言いましたが、この充電器には、定電圧機能はありません。本来ならば、充電終止電圧を 判定し、定電 流充電から定電圧充電に自動的に切り替える機能を持っていてしかるべきです。このような機能は、オペアンプを利用したコンパレータを用いれば作ることがで きますが、本機では、それを別の方法で代替しています(そこが、「簡易」充電器たる所以です)。

 実は、定電流制御に用いたIC、LM317Tは、IN(3ピン)とOUT(2ピン)の間に、規定電圧以上の電圧差がないと、正常に動作しません(最 小ド ロップ電圧と呼ばれます)。LM317Tのデータシートによると、25℃のときの最小ドロップ電圧は、以下の表のようになっています。これより、 電流 0.7(A)のと きの最小ドロップ電圧は、約1.85(V)であろうと推測できます。

表1
OUTからの出力電流
最小ドロップ電圧(25℃)
20(mA)
1.5(V)
200(mA)
1.6(V)
500(mA)
1.8(V)
1000(mA)
2.0(V)
1500(mA)
2.2(V)

 さらに、LM317Tが正常に動作している場合は、OUT(2ピン)とADJ(1ピン)との間は、高精度で、1.25(V)に保たれます。INから入っ てADJから流出する電流値は極めて小さいので(数十μA程度)、INから入ってOUTから流出する電流に比べて無視できます。OUTから出た電流は、 R1を通って バッテリに流れ込み、バッテリの充電電流となります。ところが、R1はLM317TのOUTとADJとの間に並列に接続されていますので、R1の両端の電 圧は1.25(V)に保たれています。つまり、R1を流れる電流は1.25/R1に保たれることになり、定電流回路となるのです。

 しかし、上の説明は、「LM317Tが正常に動作していれば」という条件付きです。そして、LM317Tが正常に動作するためには、INとOUTとの間 に、最低1.85(V)のドロップ電圧が必要です。さらに、OUTとADJとの間は1.25(V)ですから、結局、INとADJとの間には、最低でも 3.1(V)のドロップ電圧が必要ということになります。さらに、D1のところで約0.4(V)の電圧降下がありますので、トータルで、最低でも約3.5 (V)の電圧降下が発生します。

 この点について、もう少し深く考えてみましょう。電源に用いたACアダプタの出力は、16(V)です。LM317TとD1とで合計3.5(V)の電圧降 下があるとす ると、バッテリに印加される電圧は16-3.5=12.5(V)となります。放電し、これより低い電圧になっているバッテリを充電するとすると、 LM317TのIN-OUT間には最小ド ロップ電圧を超える電圧がかかりますので、正常動作し、従って、充電電流は0.7(A)に保たれて定電流充電となります。このように、定電流動作をする最 大電圧を、本稿では仮に、切り替え電圧と呼ぶことにします。

 次に、充電が進み、バッテリの電圧が上昇してきて、12.5(V)を超えたとしましょう。すると、LM317Tにかかる電圧は、最小ドロップ電圧に達し ません。そのため、LM317Tは正常動作せず、従って、LM317TのOUT-ADJ間の電圧は1.25(V)を維持できなくなります。そこで、OUT -ADJ間の電圧が、例えば0.9(V)にまで低下したと仮定します。OUT-ADJ間には抵抗R1が並列接続されていますから、このことはすなわち、 R1の電圧降下が0.9(V)になることを示しています。つまり、R1には、0.9×R1(=0.9×1.8=0.5(A)=500(mA))の電流が流 れることになるのです。つまり、バッテリの充電が進んで電圧が上昇してくると、充電電流は自動的に減少してくることが分かります。そして、充電電流が減少 するということは、バッテリをゆっくり充電することに他なりませんから、バッテリ電圧の上昇速度は遅くなります。

 下図は、こ の様子を図示したものです。切り替え電圧(本機の場合は12.5(V))に達するまでは完全な定電流動作を行いますが、その後は、電流を減じながら緩やか に電 圧が上昇していくような動作に移行します。本機では、このようにして擬似的な定電流・定電圧動作を実現しているのです。完全な定電流・定電 圧動作とは若干異なりますが、鉛バッテリは過充電に強く、充電時の要件がそれほどシビアではありませんので、この程度の充電方式でもまった く問題ありません。6セルの鉛バッテリの満充電電圧は13.7(V)であり、完全な定電流・定電圧充電の場合は、充電終止電圧は満充電電圧に等しく 13.7(V)に設定しますが、本機のような擬似定電流・定電圧充電では、切り替え電圧以後もある程度電圧が上昇しますので、その上昇分を見込んで、切り 替え電圧 を満充電電圧よりも1(V)程度低く設定しておけば良いでしょう。本機の切り替え電圧12.5(V)は、このような考えの下に出てきたものなのです。



 なお、以上の説明からも分かりますように、本簡易型充電器は、DC16(V) 入力専用です。他の電圧のACアダプタは使用できません。また、R1の値を変更することにより設定電流を 変更できますが、LM317Tの最大電流は1.5(A)となっていますので、余裕を見て、電流は1.2(A)以下(R1は1(Ω)以上)とすべきです。そ れ以上の充電電流が必要な場 合は、より許容電流の大きなLM350A(許容電流3(A))やLM338T(許容電流5(A))などを用います。

 以下は、本簡易型充電器の写真です。写真で上側の黒いコネクタが、ACアダプタからの入力です。下側の太いほうのケーブルはノートパソコンへの電源出 力、細いほうのケーブルはバッテリへの充電出力です。



 内部の写真です。LM317Tは絶縁性を考えてモールド型を購入し、放熱のためにアルミケースに直付けしました。部品点数が少ないので、電源コネクタや ラジケータの端子を利用した空中配 線にしてしまいました。



 充電中の様子です。順調に充電できているようです。



 以下は、充電中のラジケータの拡大写真です。上がバッテリ電圧、下が充電電流を表します。

※ なお、ラジ ケータはジャンク品の流用ですので、当然のことながら、ラジケータの目盛の数値に意味はありません。下の写真の上側のラジケータ(バッテリ電圧)につ いては、針が左端で11(V)、針が右端で14(V)と見てください。また、下側のラジケータ(充電電流)については、針が左端で0(mA)、針が右端で 700(mA)と見てください。

 充電初期には、バッテリ電圧が切り替え電圧よりも低く(上のラジ ケータの針が低い値を示している)、定電流充電が行われています。そのため、電流値は700(mA)で一定となります(下のラジケータがフルスケールを維 持している)。



 こちらは、充電末期のラジケータの拡大写真です。バッテリ電圧は、満充電に近づいてほとんど頭打ちになる(上のラジケータがフルスケールに近づく)とと もに、充電電流が減少し始めてきています(下のラジケータの針がだんだん下がってきている。この写真では、充電電流はおよそ400(mA))。定電圧充電 状態に入ったことが分かります。



 充電電流が充分に小さくなれば、充電完了と判定します。充電終了時のラジケータの状態を以下に示します。バッテリ電圧は、満充電電圧となりました(上の ラジケータがフルスケールになっている)。また、電流が大幅に減少しましたので(下のラジケータ。この写真では、充電電流は約50(mA))、満充電に達 したものと判定しました。このときの充電器からの出力電圧を測定す ると、14.1(V)でした。ここで充電器をバッテリから取り外すと、バッテリ電圧は少し下がって、13.7(V)を示しました。正確に満充電電圧と なりました。



 なお、現在のところ、本機では目視により満充電を判定するようになっていますが、将来的には、これを自動的に検知できるように改良したいと考えて います。



試運転


 一番重要なノートパソコンの駆動可能時間についてですが、実際のノートパソコンを用いて実験を行いました。使用したノートパソコンは富士通FMV- 6700MF9/Xで、CPUはPentiumV 700MHz となっています。このパソコンを接続してバッテリが昇圧回路に対して送出する電流を実測したところ、多少の変動はあるものの、平均して1.7(A)程度で した(起動時のみ2(A))。

 以下に、経過時間とバッテリ電圧との関係を表ならびにグラフで示します。

経過時間
バッテリ電圧
実験開始前
13.22(V)
0分
12.65(V)
10分 12.70(V)
20分 12.71(V)
30分 12.70(V)
40分 12.69(V)
50分 12.67(V)
60分 12.65(V)
70分 12.62(V)
80分 12.59(V)
90分 12.56(V)
100分 12.53(V)
110分 12.50(V)
120分 12.46(V)
130分 12.42(V)
140分 12.38(V)
150分 12.34(V)
160分 12.31(V)
170分 12.28(V)
180分 12.24(V)
190分 12.20(V)
200分 12.15(V)
210分 12.10(V)
220分 12.06(V)
230分 12.01(V)
240分 11.96(V)





 この実験結果を見ると、無負荷の状態でバッテリ電圧は13.22(V)あったものが、ノートパソコンを接続した途端に0.6(V)ほど電圧降下したこと が分か ります。パソコンは起動時に比較的大きな電力を食いますので、バッテリ電圧は一旦12.65(V)に下がりますが、すぐに0.05(V)ほど上昇して 12.70(V)となり、その電圧を40分間ほど維持します。その後は10分あたり約0.03(V)の割合で電圧降下していきます。実験開始から2時間を 経過したあ たりから、電圧の降下率は毎分0.04(V)となります。さらに、実験開始から3時間を過ぎると、電圧降下率は毎分0.05(V)となります。開始後4時 間でバッテリ電圧が12(V)を切りましたので、ここで実験を打ち切ることにしました。

 実験に際して、昇圧装置の発熱が心配でした。実験を行ったのは2010年5月31日で、室内の気温は25℃ほどありました。一番発熱するパーツはショッ トキーバリアダイオードでしたが、アルミケースに直付けして放熱したおかげで、ほんのり暖かい程度でした。FETはほとんど発熱していませんでした。一番 温度が上昇していたのはパワーインダクターで、実験終了時(4時間の連続運転後)の温度は57℃でした。半導体ではありませんので、この程度でしたら許容 範囲でしょう。

 一方、充電器のほうも問題なく動作しています。充電時間は、おおよそですが、使用時間の3倍程度かかるようです。例えば、上の実験のように4時間使用し た場合は、充電に大体12時間ほどかかります。駆動時の消費電流が平均1.7(A)程度で、定電流動作時の充電電流が700(mA)ですので、充電効率や 最後の定電圧動作時に電流が減少することなどを勘案しますと、使用時間の約3倍の充電時間は納得できる結果です。



使用感


 最初は、鉛バッテリをリュックサックに入れて持ち歩くなんて…、と思っていましたが、いざ使ってみると、それほど重くもありませんし、移動中に長時間 ノートパソコンが使用できるので、自分なりに満足しています。当初は3時間駆動を目標にしていましたが、実際に製作してみると、それを超える4時間の連続 駆動が可能でした。

 昇圧回路のコイルには、平均でも2(A)、瞬間的には4(A)を超える電流が流れているものと思われます。アルミケースを開けるとコイルが鳴くのが聞こ え、触るとトロイダルコアがかなり発熱していることが分かります。今のところ、それでも特に不具合は起きていませんが、もう少し続けて使用してみて、問題 がないかどうかを確認したいと思います。

 なお、鉛バッテリは過放電に弱いので、深放電はなるべく避け、使用後はこまめに充電することが肝要です。鉛バッテリにはメモリ効果はありませんので、心 配いり ません。また、使用しないときも、自己放電による電圧低下がありますので、定期的に補充電します(月に一回程度)。常に満充電の状態で保存するこ とが、鉛バッテリの寿命を延ばす秘訣です(この点で、満充電状態で保存すると劣化を早めるリチウムイオン電池とは異なります)。

 それでも、経年変化により、バッテリの性能は次第に劣化してくると思います。充放電可能回数は、公称で約1000回となっていますが、果たして、この バッテリがどれくらい持つものか、ちょっぴり楽しみにしています。



補足1  簡易充電器の改良


 上記の簡易充電器は、擬似的な定電流・定電圧充電を行っていますが、これをできるだけ厳密な定電流・定電圧充電に近づけることを考えます。そのために改 良した回路図を以下に示します。

 Q1とQ2が、定電流電源を形成します。電流値はR2により規定され、Q1のEB間電圧である0.7(V)÷R2が電流値となります。本機の場合は、 700(mA)です。また、IC1は12(V)の低ドロップ型三端子レギュレーターです。2ピンとGNDの間にD1としてLEDを入れてあります。この LEDはインジケータの役割をするとともに、レギュレータの電圧を自身の順方向電圧分だけかさ上げします。その結果、定電圧出力はおよそ13.8(V)と なります。これは、鉛バッテリの充電終止電圧に一致します。

 このように、本機は、定電流電源と定電圧電源とを直列接続したような構造になっています。これにより、最大電流700(mA)かつ最大電圧13.8 (V)が実現されます。充電初期には、バッテリ電圧が13.8(V)よりも低いために、充電電流が最大700(mA)に規制されます。充電末期には、バッ テリ電圧が上昇してきますが、最大電圧は13.8(V)を超えることができません。そのため、充電電流が減少するように自動的にコントロールされます。

 D3はバッテリからの逆流防止ダイオードです。IC1の2ピンに直列にD2を挿入して、D3による電圧降下分を相殺します。





 これが改良版充電器です。もとの充電器の空中配線を利用しましたので、さらにごちゃごちゃの空中配線となってしまいました。




 動作状況は良好です。充電電圧13.5(V)あたりまでは、700(mA)の定電流充電、その後は充電電圧がほぼ一定となり、次第に電流が減少する定電 流充電となりました。充電終止電圧直前まで充電電流700(mA)をキープしますので、充電効率が高まり、充電時間が短縮されるという長所があります。そ の一方で、長時間700(mA)が流れますので、Q2とIC1がかなり発熱することは短所でしょう。アルミケースに直付けしていますが、そ れでもアルミケースが相当暖かくなるぐらいの発熱量があります。

 また、最初に製作した簡易充電器では、充電終了時のバッテリ電圧が14(V)を超えましたが、本機では、これが13.6(V)となりました(理論上は 13.8(V)のはずですが、実測すると0.2(V)ほど低めに出たということです。おそらく、D2の電圧降下よりも、D3の電圧降下の方が大きいためで あろうと考えられます)。そのため、バッテリの充電容量がやや小さくなり、ノートPCの駆動時間も以前より短めになりました。ただし、バッテリの寿命を考 えると、充電終止電圧が低いことは必ずしも悪いことでもないと思います。



補足2  鉛バッテリの充電方法

 
 鉛バッテリの充電方法について、少しばかり考察をしておきたいと思います。

 鉛バッテリの充電の原則は、定電流・定電圧充電であることは、本文中に述べた通りです。しかし、鉛バッテリは過充電に強く、 開放型バッテリならば、定電圧機能を省いて、単に定電流充電とすることも珍しくありません。

 しかし、シールド型の鉛バッテリ(MF型鉛バッテリとも言 う。Maintenance Freeの略)の場合は、必ず定電流・定電圧充電を行う必要があります。これは、鉛バッテリは充電末期に水の電気分解により大量の水素ガスを発生する ためで、開放型バッテリとは異なり、ガスの逃げ場のない密閉構造のシールドバッテリでは、破裂の危険性があるからです。バッテリが破裂する と、電解液の希硫酸が飛散して大変危険です。シールドバッテリの内部には触媒が設置されており、少量の水素ガスであれば酸化して水に戻すこ とができます。そこで触媒の処理能力を超えないように、シールドバッテリでは、充電末期になると定電圧充電方式に切り替えて充電電流を絞り、ガスの発生 を極力抑えるのです。

 「シールドバッテリは専用充電器で充電しなければならない」とよく言われるのは、開放型バッテリ用の充電器の中には 充電末期になってもあまり電流を制限しない製品が多いからです(そのほうが充電時間を短縮できるため)。このような充電器でシールドバッテリを充電するこ とは、大変危険です。

 また、鉛バッテリは、その特性上、大電流による急速充電には絶対的に不向きです。開放型バッテリの場合は、 止むを得ない場合に限り、0.5C程度の大電流で急速充電するつわものもいるようですが、バッテリは確実に傷みます(私はやりません)。 また、シールドバッテリの場合は、いかなる場合も、絶対に急速充電してはなりません

 このような理由で、これまで、シールドバッテリについては、0.1C以下の充電電流による充電し か許されていませんでした。しかし、最近は鉛バッテリの品質が向上し、充電能力が以前よりも格段に増強されているようです。 水素ガスが大量に発生しないという条件付きでですが、短時間に限り、0.3Cまでの充電電流を許容できるようになりました。 そこで、最近は、鉛バッテリに対して、定電圧充電方式が採用されるようになってきました。

 定電圧充電方式の基本回路を以下に示します。原理は非常に単純で、直列抵抗Rを介して、定電圧電源(電圧E)とバッテリ(電圧V)とをつないでいるだけ です。



 従って、この場合の充電電流 I は、I=(E-V)/R で求められ、充電開始時が電流最大となり、充電が進んでバッテリ電圧が上昇す るにつれて、電流は減少することが分かります。

 定電流・定電圧充電(赤)と、定電圧充電(ピンク)の充電電流の時間変化を表したグラフを以下に示します。定電圧充電では、初期電流を0.3C (あるいはそれ以下)に設定します。これにより、「ガスが発生しない状態で短時間のみ0.3Cを流すことができる」という条件を満たしつつ充電を 行うことができます。



 このグラフから分かるように、定電圧充電では、初期電流が大きいために、充電完了までの時間が短縮されます。例えば、充電電流が 0.02Cまで減少した状態を満充電と定義したとします。定電圧充電での充電完了時間T1は、定電流・定電圧充電での充電完了時間T2に比べて短くなるこ とが分かります。

 以上の考察をまとめたものが、以下の表2です。定電流・定電圧充電が最も理想的な充電方式ではありますが、最近のバッテリでは、定電圧充電も許容されま す。

表2

最良の充電方式
許容される充電方式
開放型鉛バッテリ
定電流・定電圧充電
@ 定電圧充電
A 定電流充電
シールド型鉛バッテリ
@ 定電圧充電

 今回購入したシールドバッテリの箱に書かれていた注意書きを以下に示します。一行目に「Constant Voltage Charge」と書かれており、定電圧充電可能であることを示しています。また、四行目の「Initial Current : 2.1A Max」は、初期電流の最大値が2.1(A)であることを示しています。容量7(Ah)のバッテリの0.3Cの電流値に一致します。




 では、二行目の「Standby Use」ならびに三行目の「Cycle Use」とは何でしょうか?

 実は、鉛バッテリの使用法には、サイクル使用スタンバイ使用の2つの方法があるのです。両者は、バッテリの使用 目的の違いを表しています。サイクル使用というのは、バッテリを充電するときのみ充電器を接続し、バッテリを使用するときは充電器を外す使用法で す。要は、バッテリを単独の電源として使用する場合です。それに対し、スタンバイ使用では、充電器を常時接続します。バッテリの放電と充電とを同時に行 う方法で、UPSのバッテリや、車のバッテリなどの使用法がそれに当たります。いわゆる、フローティング充電と同じことです。

 そこで、先ほどの注意書きに戻りますが、サイクル使用をする場合の定電圧充電の充電電圧は14.5(V)から14.9(V)の間、スタンバイ使用をす る場合の充電電圧は13.6(V)から13.8(V)の間と指定されていることが分かります。

※ なお、本稿ではこれ以降、「サイクル使用をする場合の定電圧充電」、「スタンバイ使用をする場 合の定電圧充電」を、それぞれ、単に「サイクル充電」、「スタンバイ充電」と略記することにします。

 バッテリの注意書きからも分かるように、サイクル充電での充電電圧は、スタンバイ充電での充電電圧よりも高くなります。にもかかわらず、充電開始時の 初期電流が両者で等しい(0.3C)ということは、サイクル充電器では、先に示した定電圧充電の原理図中における直列抵抗Rを、スタンバイ充電器の場合 よりも大きくとらなければならない、ということを示しています。詳しい議論は省略しますが(簡単な微分方程式を解くことにより出てきます)、直列抵抗が大 きいということは、充電電流の時定数が長いということを表しており、従って、同じ初期電流0.3Cから始めても、サイクル充電のほうが、充電電流の減衰ス ピードが遅くなります。下図のサイクル充電(ピンクの線)と、スタンバイ充電(マゼンタの線)は、この様子を表したものです。

 スタンバイ充電の場合は、充分に時間が経過した後、トリクル充電状態に入ります。これは、微小電流で常時充電を行うことにより、バッテ リを常に満充電状態に保つもので、充電電流と、バッテリの自己放電電流とが釣り合うような電圧で充電する必要があります。先の注意書きによ ると、このバッテリの場合は、それが13.7(V)±0.1(V)ということになります。これよりも電圧が低いと、自己放電のほうが勝ってしまい、バッテ リは満充電状態を維持できません。逆に、これよりも電圧が高いと、バッテリは過充電状態に陥ってしまいます。いくら鉛バッテリが過充電に強いとはいえ、常 時過充電の状態にすることは避けなければなりません。

 下のグラフからも分かるように、サイクル充電の場合は、スタンバイ充電に比べて、電流の減衰が遅いため、常に充電電流の値がスタンバイ充電よりも大 きくなっています。これは、サイクル充電のほうが、スタンバイ充電よりも、速く充電が完了することを意味しています。従って、トリクル充電と同じ程度の微 小 電流になるまでサイクル充電をすると、過充電になりますので、サイクル充電の場合は、ある程度電流が減少した段階で、早目に充電終了とします



 



 なお、後に、単1乾電池10本を用いて、ノートPCを駆動する実験を行いました。




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