DC-ACインバータの製作




 直流12(V)から交流100(V)を得る、簡単なDC-ACインバータを製作してみることにします。

 回路図は以下のようになります。



 CMOSの4069UBを用いて矩形波を発生させて、2つのFETを交互にスイッチングし、センタータップ式トランスと組み合わせて昇圧する仕組です。
 使用するFETは、ON抵抗の小さい品種が、 発熱の点から有利です。入力容量は小さいに越したことはありませんが、本機はス イッチング速度が遅いので、それほど神経質になる必要はありません。たまたま、2SK2311が手持ちの中にありましたので、今回はこれを用いることにし ました。以下に、2SK2311の特性を示します。これ以外にも、DC-DCコンバータ用、スイッチングレギュレータ用などと書かれたほとんどのMOS- FETが使用可能と思います。


ドレイン耐圧
ドレイン電流
ON抵抗
入力容量
2SK2311
60(V)
25(A)
36(mΩ)
1000(pF)

 一つだけ気になるのは、2SK2311のドレイン耐圧が60(V)で、やや低いことです。トランスで発生するサージ電圧を考えれば、できれば、100 (V)以上の耐圧の品種を用いたかったのですが、手持ちの中になかったので、やむなくこれを用いました。

 矩形波の発振回路はごくありふれたものですが、VR2、D1、D2を追加して、デューティー比を変化できるようにしてあります。D1、D2は普通の小信 号用ダイオード(1S1588など)でかまいません。最初、デューティー比固 定で製作していたのですが、実際に稼動させてみると、トランスから“唸り”が聞こえてきて気になりましたので、デューティー比を調整できるようにしたもの です。理論上は、デューティー比は1:1で良いはずですが、実際には部品定数のばらつきやトランスのタップが完全に中間でないなどの理由により、デューティー比をわずかに1:1からずらせてやるほうが良いようです。

 VR1により、発振周波数が変化します。ここにB型の可変抵抗を用いると、周波数の高い部分での調節が微妙になってきますので、故意にA型の可変抵抗を 用いてあります。R2はここにある2.2kΩで限界で、これ以上小さくすると、発振が不安定になりました。この状態で、実際の発振周波数は、60(Hz) から300(Hz)となっています。

 R4とR7は、FETのゲートのすぐ近くに取り付けます。これは、FETの発振止めと、万一FETが破壊してゲートが導通状態になったときの 4069UBの保護とを兼ねています。

 なお、FETには、本当ならば保護のためにフライホイールダイオードを入れる必要がありますが、電力用のMOS-FETは、ほとんどの品種が、フライホ イールダイオードを内蔵しています。また、ゲート保護用のダイオードが内蔵されている品種も多くなっています。2SK2311では、どちらも内蔵されてい ますので、本機の回路では省略しました。

 D3、R5、C2は、トランスで発生するサージ電圧を緩和するための、スナバ回路で す。2SK2311のドレイン耐圧60(V)は、いわゆる絶対最大定格(瞬時たりとも超えてはならない電圧)ですので、スナバ回路は必須です。D4、 R8、C3も同様です。ダイオードは高速なショットキーバリアダイオードかファーストリカバリダイオードの方がベターですが、このダイオードには常に順方 向電圧しかかかりませんので、普通のシリコンダイオードで代用しても、それほど悪くはないかも知れません。C2は、耐圧100(V)以上のフィルムコンデ ンサを用 います。電解コンデンサを使用してはいけません。スナバ回路は、本来はトランス両端と中間タップとの間に入れるのですが、ここでは、トランスの両端とグラ ンドの間に入れました。実際の実験では、その方がサージ電圧をよく吸収したからです。また、コンデンサの1μFと抵抗の10kΩの組合せも、実験的に決め ました。抵抗値が大きすぎると、コンデンサが吸収したサージの電荷の放電が間に合わず、かと言って抵抗値が小さすぎると、無駄な電流が増えますので、バラ ンスを考えて決定します。

 R9は、全体の電流値をモニターするための抵抗であるとともに、大電流時にドレイン電圧を下げて、サージの瞬間に大電流が流れるのを少しでも緩和するた めの役割を担っています。大電流時には発熱しますので、5(W)のセメント抵抗を用います。D4は電源の逆接続を防止するとともに、サージ電圧が外部電源 に逆流して伝わるのを防ぎます。ここは、順方向電圧の低いショット キーバリアダイオードを使用します。許容電流の大きなものが良いと思います。私は手持ちの関係で、3(A)物を用いました。

 矩形波の発振に用いるCMOSゲートは、アンバッファタイプである4069UBを 用います。4069Bはバッファタイプですので、このような発振回路に は適しません。また、この4069UBは、発振周波数を安定させるために、78L09を通して9(V)で動作させています。9 (V)に設定したのは、ゲート電圧が高いほどFETのON抵抗が低くなるか らで、ここに、4069UBの代わりに74HCU04を用いると6(V)以下で しか使用できず、FETのON抵抗の面で少しばかり不利になります。

 トランスは、一次側0(V)-100(V)-110(V)、二次側0(V)-12(V)-24(V)、二次側電流1(A)のものを、一次側と二次側を逆 にして使用しています。トランス内部での損失に伴う出力電圧の低下を補うため、出力には110(V)端子を使用します。

 FETのドレインの電圧波形を以下に示します。入力の12(V)は、パソコン用電源装置の+12(V)を利用しています。
 スナバ回路がない場合、サージ電圧が生じているのが見えます。




 これに対し、スナバ回路を入れると、サージが大幅に減少したのが分かります。



 また、電流波形(実際には、R9の両端の電圧)を以下に示します。デューティー比が適正でない場合、トランスが唸ります。電流波形を見ると、トランスの 半分の巻線と、もう半分の巻線に流れる電流が等しくならず、トランス全体で見ると、直流が流れているのと同じ状態になっていることが分かります。こうなる と、トランスは早晩磁化してしまい、インダクタンスを失うことになります。また、このような状態では、無負荷時にもかなりの電流が流れ、効率が悪くなりま す。



 VR2を調整すると、トランスの唸りが最小になるポイントが一つ見つかります。また、その時、無負荷時の消費電流も最小となり、出力電圧は最大となりま す。このとき、トランス の双方の巻線に均等に電流が流れていることが分かります。



 このDC-ACインバータでは、発振周波数の範囲は、おおよそ、60(Hz)から300(Hz)となりました。60(Hz)用のトランスに300 (Hz)もの矩形波を入力しても良いのかどうかは、実際のところ分かりません。そもそも、矩形波自体が高調波をふんだんに含んでいますので、仮に60 (Hz)であったとしても、矩形波を入力してよいのかどうか、疑問がないわけではありません。ですので、ここは、自己責任で実験を行うということになります。理論上は、周波数を上げると磁気飽 和が起こりにくくなり、トランスの効率が良くなるはずです。周波数を300(Hz)まで上げて使用しても、今のところ、私のところでは問題は生じていませ んが、本機の回路を応用される方は、あくまで自己責任でお願いします。

 出力波形の一例を示します。これは、本機の最大出力である負荷10(W)時の波形ですが、周波数300(Hz)でも、ほぼ完全な矩形波が出力されています。オシロスコープのゼロラ インが少しずれていますが、実際には正負対称の波形です。振幅は、90(V)を超えています(Vp-pが180(V)以上あります)。






 製作したDC-ACインバータの写真です。FETの放熱器は簡易なものを使用していますが、これでも、ON抵抗が充分に低いおかげで、ほとんど発熱は感 じられません。トランスが二次側電流1(A)のものですので、流せる電流も1(A)までとなります。これぐらいの電流では、FETはほとんど発熱しないよ うです。12(V)入力で1(A)までですから、効率を考えると、取り出せる電力は10(W)ぐらいまででしょう。




 100(V) 5(W)の電球を2個用意し、これらを直列、単独、並列に接続して、それぞれ2.5(W)、5(W)、10(W)の負荷とし、出力電圧と消費電流とを調べ た結果が、下のグラフです。




 無負荷の場合、出力電圧は107(V)、消費電流は0.08(A)ですが、負荷をかけると出力電圧は低下し、消費電流は増加します。これは電球をつない で測定しただけですので、余り正確な測定ではないのですが、それでも大まかな傾向は把握できます。

 負荷の増大に伴う出力電圧の低下は、トランスの巻線抵抗(銅損)の影響が一番大きいのではないかと思っています。電球を2個並列につないだ場合、上のグ ラフでは横軸の10(W)のところに表示してありますが、実際には、出力電圧が93(V)に下がっていますので、8.5(W)程度の消費電力かもしれませ ん。一方、入力12(V)で消費電流が0.8(A)ですから、9.6(W)の入力となります。ですので、この場合は、ほぼ90(%)ぐらいの効率と見積も ることができます。



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