歯科医師卒後臨床研修の目標 

 

(平成12年度厚生科学研究事業公開シンポジウム資料より)


1.基本的な考え方    2.ねらい    3.一般目標    4.行動目標

                                  


  1プログラム作成の基本的な考え方  

 具体的な「到達目標の見直しおよび標準プログラム」の作成に当たっては、次のプログラム作成の基本的な考え方、ねらい、一般目標、行動目標を掲げた。

1. 卒後臨床研修では、卒前臨床実習の到達目標(各大学での卒前臨床実習の到達度にはかなりの差があるが)より高度な目標を設定することを基本とする。従って歯科大学長会議で提示された歯科医学教授要項−臨床実習編−を基準として、それよりも一歩前進した高度なプログラムを作成する。

2. 社会構造の変化、国民の歯科医療ニーズに応えるため、ミニマムリクワイアメントの到達目標と各研修施設の特徴を生かしたオプショナルな到達目標を構築することが望まれることにより、専門的な技術能力をもつ歯科医師の育成には、研修プログラムの中にオプションとしての専門分野が選択できるような工夫をする.

3. 医療者として生涯研修は必修である。本臨床研修制度の1年目はその生浬研修のスタートとして位置づけ、自己学習の態度・習慣を身につけることを目標とする。

4. 歯科医師卒後臨床研修が「主たる研修施設」および「従たる研修施設」いずれにおいても、研修をすすめてゆく上での共通的な、一般的な到達目標および標準プログラムを作成する。したがって、それぞれの研修施設の特徴づけの中で、その研修内容を取捨選択して最大限に可能な臨床研修プログラムの履修に努めるものとする。

2.ねらい  

 1年ないし2年間の卒直後鯨床研修において、患者中心の全人的医療を理解し、すべての歯科医師に求められる基本的な診療能力(態度、知識、判断力、技能)を身につける。そして、国民から望まれる歯科医師としてスタートでき、生涯研修の第一歩とする。

3.一般目標  

 1.歯科医師として好ましい態度を身につけ、患者および家族とのよりよい人間関係を確立する。

 2.全人的な視点から得られた情報を理解し、それに基づいた総合的治療計画の立案をする。

 3.歯科疾患と障害の予防および治療における基本的技術を身につける。

 4.一般的によく遭遇する応急処置と、頻度の高い歯科治療処置が確実に実施できる。

 5.歯科診療時の全身的な偶発事態に適切に対応できる。

 6.自ら行った処置の経過を観察、評価でき、診断と治療を常にフイードバックする態度を身につける。

 7.専門的知識や高度先進技術に目を向け、生涯研修の意欲への動機付けができる。

 8.歯科医師の社会的役割を認識し、実践する。

4.行動目標(SBOs)  

GIO1:歯科医師として好ましい態度を身につけ、患者および家族とのよりよい          人間関係を確立する。

SBO1:患者・家族が十分に納得できるように説明した上で、自主的な同意が得られる。

SBO2:患者・家族との信頼関係が確立できる。

 (1)医療面接の技法

 (2)患者・家族の要求と心理的側面の把握

 (3)生活習慣の変容への配慮

 (4)インフオームド・コンセント

(診断内容、治療方針・治療内容、予後、偶発症、代替治療法についての説明、カウンセリングとモチベーションなど)

 (5)プライバシーへの配慮

 

GIO2:全人的な視点から得られた情報を理解し、それに基づいた総合的

           治療計画を立案する。

注)以下のSBOの項目のうち※を付したものは、特に履修を要する研修項目である。

SBO1:基本的診察法を実施し、それぞれの所見を判断する。

 (1)問診※(主訴、現病歴、既往歴、家族歴など)

 (2)全身の診察※(バイタルサインのチェック、常用薬剤のチェックなど)

 (3)口腔内外の診査※ (視診、触診、打診、聴診、下顎運動の診査、咬合・咬合診査)

 (4)口腔模型からの診査※(咬合器を用いた咬合診査、咬合面・隣接面・咬合平面の診査、顎態分析)

 (5)エックス線写真検査※

 (6)成長発育の診査※

 (7)習癖・嗜好の診査※

SBO2:基本的検査法を実施し、それぞれの所見を判断する。

 (1)う蝕の検査※(う蝕病巣の診査、う蝕活動性の診査など)

 (2)歯髄の検査※(エックス線写真検査、電気歯髄検査、根管細菌試験,根管長測定など)

 (3)歯周組織の検査※ (歯周ポケットの測定、歯周ポケットの浸出液の検査など

 (4)舌・口腔粘膜の検査※

 (5)歯列・咬合の検査※(咬合接触点、早期接触、咬合干渉の検査など)

 (6)顎関節の検査(顎関節雑音の聴音、エックス線検査、顎運動の検査、CT検査、MRIなど)

 (7)咀嚼筋機能検査(圧痛点の検査、筋電図)

 (8)唾液・唾液腺の検査

 (9)エックス線写真検査

   a)口内撮影法※(二等分法、平行法、咬翼法、咬合法など)

   b)口外撮影法(パノラマエックス線撮影法※、エックス線単純撮影法※、

      後頭前頭方向撮影法、側方向線影法、軸方向撮影法、Waters撮影法、顎関節投影法、

      頭部エックス線規格写真撮影法、エックス線断層撮影法、造影撮影法など

 (10)CT検査

 (11)磁気共鳴画像検査[MRI]

 (12)血液検査(採血、血算、止血機能検査−止血検査、凝固系検査、造血能、溶血に関する検査、

    血液型など)

 (13)循環機能検査(血圧測定※、心電図検査など)

 (14)呼吸機能検査(肺機能検査、血液ガス分析など)

 (15)生化学挨査

 (16)感染症に関する検査

 (17)細菌学的検査

 (18)免疫学検査

 (19)病理組織検査・細胞診

 (20)心理・精神機能検査(CMI,Y-Gテスト,MMPI,Rorehachテスト、面接法など)

 

SBO3:POS(Problem Oriented System)に立脚した医療を選択する。

 (1)情報収集

 (2)プロブレムリストの作成

 (3)治療方法と術式の選択肢の提示

 (4)一口腔単位の治療計画の作成

 (5)再評価

 

GIO3:歯科疾患と障害の予防および治療における基本的技術を身につける

SBO1:基本的治療法、手技の適応を決定し、実施する。

 (1)滅菌法※、消毒法※

 (2)う蝕活動性低下処置※(フッ化物歯面塗布、予防填塞など)

 (3)ラバーダム防湿法*

 (4)印象採得※(概形印象、精密印象など)

 (5)窩洞形成※、支台歯形成※

 (6)咬合採得※     

 (7)う蝕病巣の除去ならびにそれに対する修復処置※

 (8)象牙質知覚過症に対する処置※

 (9)歯髄処置※(覆髄法、断髄法、抜髄法など)

 (10)感染根管処置※

 (11)根管充填法※   

 (12)歯周病に対する処置(初期基本治療※、歯周外科治療など)

 (13)注射法(筋肉注射、静脈注射、皮内注射)

 (14)局所麻酔法※(表面麻酔法、浸潤麻酔法、伝達麻酔法など) 

 (15)精神鎮静法(吸入鎮静法※、静脈内鎮静など)

 (16)全身麻酔法(吸入麻酔法、静脈麻酔法、など)

 (17)外傷歯の処置※  

 (18)変色歯の処置

 (19)抜歯※(乳歯、永久歯など)

 (20)消炎療法※

 (21)口腔外科処置※(歯の脱臼処置、粘膜・骨膜切開、粘膜骨膜弁形成、歯の分 割、

        骨の削除、止血処置、縫合法、抜糸、抜歯窩治療不全 処置、排膿処置など)

 (22)歯の欠損に対する補綴治療※(架工義歯、有床義歯など)

 (23)歯・歯列不正・咬合異常に対する咬合誘導並びに矯正治療(予防矯正、抑制矯正)

 (24)顎関節症に対する治療(薬物投与、理学療法、スプリント療法、セルフケア指導など)

 

SBO2:患者・家族と良好な人間関係を要する症例を経験する。

  (1)小児患者に対する治療

 (2)高齢者に対する治療

 (3)全身疾患を有する患者に対する歯科治療

 (4)障害(児)者に対する歯科治療

 (5)要介護者に対する歯科治療

 (6)感染症を有する患者への対応

 (7)患者の療養生活指導ならびに栄養指導

 

SBO3:予防処置の実施あるいはその重要性を認識し適切に対応する。

 (1)う蝕の予防と管理※(リスク判定、ブラッシング指導、フツ素塗布、予防填塞、生活指導、

                                     食事指導など)

 (2)歯周病の予防と管理※(リスク判定、プラークコントロール、スケーリング、ルートプレーニング、

                                          メインテナンス、口臭予防など)

 (3)歯・歯列不正・咬合異常の状態の把握と患者への指導

 (4)学校健康診断、3歳児健康診断などの集団に対する歯科保健指導、歯科衛 生指導

 

SBO4:医療記録を適切に作成し、その管理に寄与する。

 (1)診療録※

 (2)処方箋※

 (3)歯科技工指示書※

 (4)検査指示書

 (5)医療情報提供書※

 (6)診断書および死亡診断書

 

GIO4:一般的によく遭遇する応急処置と、頻度の高い歯科治療処置が

            確実に実施できる

 

SBO1:緊急を要する疾患あるいは病態について適切に対処できる。

  (1)急性歯髄炎※

 (2)急性発作を伴う辺縁性歯周炎※

 (3)急性発作を伴う根尖性歯周炎※

 (4)膿瘍形成※

 (5)修復物、補綴物、脱離に伴う障害※

 (6)補綴物破折における障害※

  (7)クローズドロツクによる開口障害

  (8)歯冠破折※

  (9)歯根破折※

 (10)歯の脱臼※

 (11)外傷性出血(口腔内、顔面)

 (12)骨折(歯槽骨、顔面骨、顎関節など)

 

SBO2:頻度の高い症状あるいは病態について診断および治療ができる。

 (1)歯の形成異常、萌出異常

 (2)咬合の異常

 (3)摂食嚥下障害

 (4)歯の自発痛※

 (5)歯の咬合痛ならびに打診痛※

 (6)歯の冷水痛ならびに温水痛※

 (7)歯の動揺※

 (8)歯の変色

  (9)歯の破折※

 (10)歯の欠損による咀嚼障害※

 (11)充填物、冠の脱離※

 (12)補綴物の破損淡

 (13)補綴物の不適合※

 (14)義歯の維持、安定不良※

 (15)義歯床による疼痛※

 (16)歯肉の腫脹※

 (17)頬粘膜、舌の咬傷※

 (18)歯間部への食片の圧入※

 (19)歯肉からの出血※

 (20)口臭

 (21)咀嚼時の筋肉痛

 (22)開口障害

 (23)顎関節疼痛

 (24)顎関節雑音

 

SBO3:その他の症状あるいは病態について診断および治療ができる。

 (1)口腔底の腫脹

 (2)頬粘膜の腫脹

 (3)顎下部の腫脹

 (4)舌の疼痛

 (5)摂食・嚥下障害

 (6)口腔粘膜異常

 (7)顔面の腫脹

 (8)顔面の疼痛

 (9)顎顔面口腔の先天異常

 (10)構音障害

 (11)顎変形症

 (12)悪性腫瘍

 (13)末梢神経障害

 

GIO5:歯科診療時の全身的な偶発事態に適切に対応できる

SBO1:適切に救急処置法を行い、必要に応じて専門医に診察を求める。※

  (1)救急蘇生法(一次,二次救命処置)

 (2)歯科治療時の全身的合併症(神経性ショック、過換気症候群、アナフイラキシーショックなど)

        とその処置法

 

GIO6:自ら行った処置の経過を観察し、評価し、診断と治療を常に

           フィードバックする態度を身につける。

 

SBO1:正しい知識の集積と認識ができ、適切な行動がとれたかを評価する。※

SBO2:正しい手順が理解でき、適切に実施できたかを評価する。※

SBO3:EBM(Evidence-based Medicine)の槻念を認識し、適切に実施できたかを評価する。

 

GIO7:専門的知識や高度先進的技術に目を向け、生涯研修の

             意欲への動機づけができる。

 

SBO1:大学病院専門診療科(大学臨床講座)に所属する。

 (1)高度な診断、治療技術を見学する

 (2)抄読会、症例報告会に参加する

 

SBO2:専門分野に入会し、専門性を高める。

 (1)専門科目の最新の研究と臨床に興味を持つ。

 (2)認定医の取得を目指す。

 

 

GIO8:歯科医師の社会的役割を認識し、実践する。

 

SBO1:歯科医療における社会的側面の重要性を認識し、適切な対応に寄与する。

 (1)保険医療などの制度、歯科医師法、医療法などの関係法規

 (2)地域歯科保健活動(集団リスク診断、集団健康診断、集団に対する歯科保健指導および

                                     歯科衛生指導、地域特性の分析と歯科保健対策の立案など)

 (3)訪問歯科診療(在宅歯科医療)

 (4)医の倫理

 (5)医療従事者・自己管理

 (6)医療事故(医療過誤・院内感染)

 (7)放射線管理・医療被曝と障害

 (8)経営管理

 (9)医療情報の収集

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