私は生体内イメージングという方法を使い、生きている動物の体の中で起こっている現象を顕微鏡で直接”見て”、それがどのような仕組みで起こるのかを調べる研究をしています。
顕微鏡というと多くの人は、動物から取り出した”死んだ”組織を観察するというイメージを持っていると思います。実際これまではそのような研究が中心でした。しかし、顕微鏡の技術の発展や緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見などにより、麻酔をかけて眠らせた“生きた” 動物の体内を直接顕微鏡で見ることができるようになりました。これによってこれまでの研究ではわからなかった、生きた動物の細胞の中でのタンパク質の動きを調べることができるようになり、多くの発見が生まれています。
歯科医である私はお口の健康の源となる唾液に興味があり、ずっと研究を行っています。特に最近注目しているのは分子スイッチとして知られるCdc42の、唾液腺(唾液を作る組織)での役割です。Cdc42は細胞の中にあるいろいろな分子に結合しスイッチオン状態にすることによって、あらゆる細胞で重要な役割を果たしています。最近の研究で私は、唾液腺細胞の中で唾液が分泌される場である細胞間小管の形を維持するために、Cdc42が必要であることを発見しました(Shitara et al., Mol Biol Cell. 2019)。図1は生体内イメージングの実験の様子で、下のムービーは唾液腺でだけCdc42を作られなくしたマウス(Cdc42コンディショナルノックアウトマウス)の唾液腺です。緑色の2つの細胞だけがCdc42を持たない細胞です。麻酔をかけたマウスの口の中にある唾液の分泌口から、唾液腺の中に光る物質を注入しました。この過程を顕微鏡にてリアルタイムで観察することにより、Cdc42がないことにより細胞間小管の形が変わっている様子がはっきりとわかります。
今後も生体内イメージングとノックアウトマウスという新しい技術をつかって、唾液腺におけるCdc42の新しい役割をどんどん発見していきたいと思っています。興味がある人は、ぜひ一緒に研究をしましょう。