歯学部・口腔構造機能発育学講座・口腔解剖学分野

口腔解剖学研究室 Oral Anatomy and Histology


最終更新日: 2008/10/21
掲載責任者: 明坂 年隆(takisaka@dent.asahi-u.ac.jp)

 


生物界におけるバイオミネラリゼーション(biomineralization)は生物の細胞活動により鉱物を形成し硬組織を作る現象をいい、サンゴや貝などが真っ先に思い浮かびます。それらの活動の一側面は地球環境の二酸化炭素の循環サイクルに組み入れられているようにも見えます。地球温暖化阻止のための一翼を担っていることになるのでしょうか。何故なら形成される硬組織は炭酸カルシウムで海水に豊富にあるカルシウムと溶け込んだ二酸化炭素を材料に石灰化を進行させるからです。では私たちの体に起こる歯や骨の石灰化は二酸化炭素削減に貢献しているのかといえば残念ながら私たちの体の中で作られる歯や骨はアパタイト(hydroxyapatite)の集合体から成っており、二酸化炭素サイクルには入り込むことはありません(唯一、内耳にある耳石は炭酸カルシウムでできていますが)。しかし歯学部で学ぶ私たちの中心的な話題となる硬組織としての歯や骨も広い意味ではバイオミネラリゼーションの範疇で取り扱われます。ヒトの体の中で起こる生理的石灰化はサンゴや貝と基本的には同じようなメカニズムで細胞外マトリックス Ca結晶を析出させて組織構築する現象で実に巧妙に仕組まれ、合目的的に組織構造が組み立てられていくことが解明されています。し かし歯や骨のように生体内で起こる石灰化メカニズムについてすべて解明されたわけではありませんし、骨組織のようにホルモン、サイトカインによる精緻にまでコントロールされたCa代謝メカニズムの全貌解明のゴールはまだ先にあります。硬組織の機能と構造を体系的に取り扱う学問領域は“硬組織学”(hard tissue biologyとも称されるべきものであり解決すべき問題点も数多く、特に形成と吸収の動的平衡の上に成立する骨組織ダイナミズムの解明は魅力的な研究テーマでもあります。現在、私たちは最新の超微形態学、細胞生物学、分子生物学の手法を駆使してこの分野の研究に参画しています。

教育・研究について 教育面では歯・歯周組織と隣接口腔諸器官についての形態学、組織学、発生学を担当しています。歯の形態学では進化の上でどのように歯のような形質を獲得するに至ったのかその経過を理解し、歯や歯周組織を消化器官の入り口としての口腔にある組織器官として位置づけ、乳歯・永久歯の鑑別、乳歯と永久歯の連続性、永久歯の詳細な形態などを学ぶことが目的です。また歯や歯周組織の組織学発生学についての講義も担当しています。実習では美大生にも劣らない内容で石膏による歯型彫刻を行いますが口腔解剖学で学ぶ歯の形態はある意味理想的な特徴をすべて兼ね備え偶像化された歯について学びます。一方、科学者としての観察眼は顕微鏡による詳細な観察により養うことになっています。これらは基礎歯学の基幹となる授業科目です。

研究面では「硬組織学」を中心に推し進めています。骨組織の構造・機能解析は近年急速に進歩してきた学問領域で多くの研究者達が取り組んでいるところです。現在、研究室では動的骨組織の主役である破骨細胞の構造・機能解析をテーマとしています。最新の急速凍結固定、凍結割断、デイープエッチングや細胞剥離を組み合わせた凍結技法を駆使して超微構造解析でしか解明できないナノレベルでの分子構築をアナグリフやトモグラフィーを用いて三次元可視化して解析を行っています。特にミリセコンドの速さで組織細胞を物理的に急速凍結固定技術は電子顕微鏡と組み合わせることで最良の時間・空間分解能を達成でき現在望みうる理想の形態学的手法で、凍結技法を用いての細胞構造三次元解析の技術は最新のテクノロジーでもあります。さらに共焦点レーザー顕微鏡を用い目標とする物質をタグとしてGFPタンパク(クラゲの発光物質を取り出してトレーサーとしたもの)に付けたものを細胞に導入・発現させ動的に追跡する細胞生物学、分子生物学の手法を駆使して“生きた状態”での細胞の動態を機能と形態を結び付けて解析することに取り組んでおり、その成果は最新の専門誌に掲載され高い評価を得ています。

(写真は生きた培養破骨細胞の微分干渉像とアクチン線維の共焦点レーザー顕微鏡蛍光像。組写真は破骨細胞の接着側細胞膜面を超音波で露出させ細胞膜面内面と細胞骨格の一部を急速凍結、回転蒸着レプリカ像を透過型電子顕微鏡でステレオ撮影し、得られた画像をデジタル化した後、コンピューター上で三次元解析したもの。細胞膜を内面から観察することになります。詳しくは業績1を参照)

 


代表的研究業績

1. Akisaka T et al. (2008): Adhesion structures and their cytoskeleton-membrane interactions at podosomes of osteoclasts in culture. 

Cell Tissue Res. 331(3):625-641.

2. Akisaka T et al.(2006): The ruffled border and attachment regions of the apposing membrane of resorbing osteoclasts as

visualized from the cytoplasmic face of the membrane.  J Electron Microsc. 552:53-61.

3. Akisaka T et al. (2001): Organization of cytoskeletal F-actin, G-actin, and gelsolin in the adhesion structures in cultured osteoclast. 

J Bone Miner Res.167:1248-1255

教員構成                   

教授・大学院教授:明坂年隆

講師・大学院講師:滝川俊也  

助教:志賀久隆・吉田寿穂   


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