1.目的
磁性アタッチメントに用いられるキーパーは根面板に鋳接されて使用されている1,2)が、キーパーと鋳造用合金との接合状態の詳細については明らかにされていない.われわれは、キーパーと鋳造用合金との接合状態やこれに影響を及ぼす鋳造条件を明らかにすることを目的とし,加圧吸引鋳造機,鋳型の係留温度を変化させた場合について検討を加えた.その結果、両者の間には間隙と反応層を含んだ黒色層が存在し,この幅は鋳型の係留温度に影響を受けることを報告した3).
今回は,鋳造方法の違いによる影響について検討するため,遠心鋳造機と真空圧迫鋳造機を用いて実験を行ったので報告する.
2.材料および方法
図1に実験に用いた材料を示す.キーパーには,愛知製鋼社製マグフィットEX600および日立金属社製ハイコレックススーパーJ4515を,また,鋳造機にはカー社製横型遠心鋳造機およびヘラウス社製真空圧迫鋳造機を用いた.
試料の形態と製作方法を図2に示す.前報と同様の形態でパターンを製作し,メーカー指示の方法にて埋没し,鋳型を昇温,中間係留させた.その後,700℃にて30分間係留を行い,2種の鋳造方法で鋳造した.埋没材を除去した鋳造体をレジン包埋後,中央部で切断,研磨を行い,金属顕微鏡およびSEM観察と,EPMAによる面分析,線分析に供した.なお,試料は各条件につき5個ずつ製作した.
3.結果および考察
1)金属顕微鏡による観察
キーパーと鋳造用合金接合部の金属顕微鏡像の一例を示す.
ハイコレックスでは,上段の遠心鋳造機と比較して,下段の真空圧迫鋳造機でキーパーと鋳造用合金の接合状態が緊密で,黒色層が少なくなっていた.また,遠心鋳造機では特にキーパー底面に大きな間隙や鋳造欠陥様の空洞が観察された(図3)
.
マグフィットでは,接合状態に明らかな違いは認められないが,ハイコレックス同様,底面に欠陥が出現していた(図4).
2)SEMによる観察
次に,接合部の側面および底面ををSEMにて観察した.
ハイコレックスの側面部では,いずれの鋳造機においても反応層は観察されたが,間隙はほとんど観察されなかった(図5).
一方底面部では両鋳造機ともに反応層の幅に大きな違いは認められなかったが,遠心鋳造機で,底面に間隙と鋳造欠陥様の空洞が観察された(図6).
マグフィット側面部では,キ−パーと鋳造用合金との間隙が明瞭で反応層が大きく観察され,キーパー表層も不規則だった(図7).
底面部ではハイコレックスと同様,反応層の幅に大きな違いは認められなかったが,遠心鋳造機で,底面に間隙と鋳造欠陥様の空洞が観察された(図8).
このように,遠心鋳造機で間隙が認められたのは,真空圧迫鋳造機と比較して鋳造圧の差に起因すると思われた.また,真空圧迫鋳造機においてキーパーと鋳造用合金との間隙が少なかったのは,溶湯が鋳型内に注入される直前において鋳型内部が減圧されていること,さらに立ち上がりの早い鋳造圧が負荷されているからと考えられた.
3)黒色層の測定
観察された黒色層の幅をSEM写真上で測定し,底面および側面に分けて平均値と標準偏差で表した.
ハイコレックスでは,側面,底面ともに遠心鋳造機において黒色層は有意に大きい値を示した(図9).また,マグフィットでも,ハイコレックスと同様の傾向を示した(図10).底面と側面で比較すると,真空圧迫鋳造機では側面において,遠心鋳造機では底面において大きい傾向を示した.このような黒色層の測定結果は先に示したSEM像の所見を反映していた.
一方,先に示したように底面には鋳造欠陥様の間隙が発生することがあり,測定時にキーパーと鋳造用合金との間隙と区別することが困難な場合があるため,これが底面での測定値を大きくしている一因とも考えられる.
このように底面での欠陥の発生は,キーパーに通気性がないことや底面には鋳造圧のかかりにくいことに由来していると思われる.
4)EPMA分析
マグフィットにおける遠心鋳造機の場合についての一例を図11〜14に示す.キーパーおよび鋳造用合金それぞれで含有量の最も高い鉄,銀および酸素について結果を示した.
面分析の結果,鉄および銀は混在することなく,両金属が相互拡散していないことが確認された(図11).
図12〜14はキーパーに直角に線分析した結果で,横軸がピークを表している.鉄は鋳造用合金との接合部で急激にピークが低下していた(図12).
銀はキーパーの接合部で急激に濃度が低下していた(図13).
酸素はキーパーと鋳造用合金との間に存在し,ほとんどはキーパー表層の鉄を含む反応層と一致して存在し,一部Ag層に認められた(図14).
このようなEPMAの分析結果は,他の条件の試料でも同様の傾向を示し,このことは,先のSEM観察で認められた反応層が酸素固溶層であることを裏付けていた.
以上,今回は鋳造方法によるキーパーへの影響を検討した.本実験に使用したすべての試料に黒色層は確認されたが,鋳造機の違い,すなわち鋳造圧のかかり方の違いで,その幅に影響することが示唆された.
前回報告した加圧吸引鋳造機での結果と比較すると,真空圧迫鋳造機の方が黒色層の幅も小さく,良好な結果が得られた.鋳接を行う場合,地金の酸化は接合を阻害する因子であると言われており,耐食性の面からもこのような反応層の存在は極力抑制する方が好ましいと思われる.さらに,遠心鋳造機で認められた底面の鋳造欠陥の抑制も含めて,今後はスプルーイングの方法やベントの配置による影響などについて検討していく予定である.
1) 柿谷幸男,堺 誠,都尾元宣ほか.補綴臨床における磁性アタッチメントの応用.岐歯学誌
21:380-386,1994.
2) 田中貴信.続・磁性アタッチメント 154,東京:医歯薬出版,1995.
3) 浅野彰夫,堺 誠,加野精一ほか.鋳造による磁性アタッチメント用キーパーの影響 第1報 係留温度について.補綴誌
40・
96回特別号:89,1996.
朝日大学歯学部歯科補綴学講座
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